【天の雷・地の咆哮】
ウェスタ国の中心地から馬で3日ほどの距離に、ひっそりと隠れるようにして、その建物はあった。
目立つ外観ではなかったが、広さやその造りから、それが庶民の住居でないことは明らかだ。
しかし、その家の主はどうしてもその住まいを気に入ることができないでいた。
それどころか、月日がたつごとに己の居場所に対する憎しみがふつふつと湧いてくるのであった。
「くそぉ。アニウスのやつめ」
毎日のように昼間から酒に溺れ、一人息子への恨み節をはく。
「カークス様ぁ。このまま終わっちまうおつもりではないでしょう?」
数人の、見るからに胡散臭さそうな男たちが、酒瓶を片手に胡坐をかいてカークスの周りを陣取る。
当然だ、と声を張り上げるものの、カークスの頭に名案は浮かんでこない。
男たちの迫るような視線から逃げるように、カークスは酒をあおった。
・・ちっ!カークスの腰抜けが。
俺は違うぞ。必ず、必ずあの男にほえ面をかかせてやる。
部屋の隅にいる一人の男は、右肩を押さえ、体をふるわせた。
その肩から下にあるべきものが、その男には存在していない。
自棄酒を飲み、堕落しきった男たちの中で、
その片腕の男は、ただ一人血走った目をし、異様な雰囲気を放っていた。