【天の雷・地の咆哮】
「まったく、アニウスのやつめ。
ちょっと手柄を立てたからと、偉そうな顔をするようになって」
「だが、やつの妹は王の子どもを産んでいる。
あまり表立って対立すると、後々まずいことになるやもしれん。
ニュクス様に子どもが出来ぬ限り、ルクス様といえど、どうなることか」
「確かにそうだ。
ルクス様の娘が神官になったそうだが、それだとて必ず神官長になれるとは限らないしな」
アニウスの側につくべきか、ルクスの側につくべきか。
己の保身を第一に考えるほとんどの貴族は、いまや顔を見合わせればそのことばかりを話し合っていた。
わずか5ヶ月。
その間に、政の情勢は劇的に変化をとげた。
それには、ロカの命令で地方にとんだアニウスが、見事な手腕で次々と混乱を収めたことが大きかった。
『誰か、この飢饉にさいして陣頭指揮を取るものはいないか』
いつもなら、出世を狙う野心家たちが我先にと名乗り出るはずの執務室は、
髪の毛一筋の揺れが響きそうなほどに音を失った。