【天の雷・地の咆哮】
誰もが皆、勝算のないかけだと思った。
死んでいくのは貧乏人。助けの手を差し伸べたところで、多少の感謝が得られるだけ。
下手をすれば、不満を抱える民衆によって袋叩きにあうかもしれない。
しかも、どう考えても裕福な貴族たちに食料の提供を求めなければならず、反感を買うのは火を見るより明らかだ。
そんな役に、進んでなりたがる者など、いるわけがない。
誰もがそう思ったとき。
『その役目、私にお命じください』
凛とした声とともに立ち上がったのは、ほかならぬアニウスその人だった。
アニウスは、まず国が所有する非常用の倉をすべて開けさせてから、
次に中央の貴族を説得し、食料や燃料、人手を出させた。
個別に提供した物の量を王や貴族たちの前でおおやけにし、
それが“王への忠誠心”だと公言してお互いにその度合いを競わせた。
なおかつ民衆などの前でも発表したため、貴族たちはお互いを牽制しつつ、備蓄品を提供せざるを得なかった。
その後、手始めに餓死者の最も多い北の地を巡り、
地方貴族たちにも同じく協力するように説得してまわった。
中央がわざわざ自分たちの地を救おうとすばやい対応をした事を目の当たりにして、
混乱は次々におさまっていった。
後に、貴族たちに対して、アニウスが脅迫めいた、多少強引な手法を使ったことが判明したものの、不問に処された。