【天の雷・地の咆哮】
男は顎に手をやり、ほぉ~、と感心したような声を上げたが、
その仕草も声音も、どこか人を小ばかにしたような、癇に障るものだった。
日が傾き始めたのだろう。
薄暗くなった森の地面に、長い影が落ちている。
沈黙が、その場を支配した。
ふと、ニュクスはこの得体の知れぬ男が剣を佩いているのに気づいた。
それは、貴族たちが豪華な石を埋め込んで見栄えを重視した飾りものの剣とは違い、
非常に簡素な、剣本来の用途を満たすためだけのそれであるようにみえる。
しかも、その柄の部分は黒ずんでおり、いかにも使い込んでいる風であった。
・・まさか。
まさか一人で戦いを挑むつもりではあるまい。
ニュクスは、その男をまじまじと眺めた。
低い声や物怖じしない態度から、かなりな年齢の男かと思えば、
それはニュクスとたいして変わらないくらいの“少年”だった。
愚かな子どもだと思いながら、それでもなぜか、ニュクスはその少年から目を離すことができなかった。
理由はさっぱりだが、少年の周囲には目に見えない、けれども独特の空気が確かに存在している。
特別な人間しか持ちえない光が。