【天の雷・地の咆哮】
・・すまない、ニュクス。
もう、後戻りはできないんだ。
完全に突き放してしまわない自分は、卑怯な男だと思いながらも、
ニュクスを抱きしめる腕に、自然と力が入ってしまう。
壊れ物だと知りながら、それでもなお、強く、強く。
扱い方を知らぬ赤子のように。
慈しむような、誰も見たことのないほど優しい光を放ったロカの瞳は、
しかし、ニュクスがそれに気づかぬうちに、ゆっくりと瞼を下ろした。
・・今日のロカは何か変だわ。それとも私がおかしいのかしら?
ロカの前では、いつでも一人の女に戻ってしまうニュクスは、
ロカもまた、ヴェローナの前では一人の男に堕ちてしまうのだということに、
少しも思い至らなかった。
自らの想いを内に秘めて語らぬウェスタの王は、
この時すでに、誰も知らない遠い未来を見つめていた--。