【天の雷・地の咆哮】
『産まれてくる子どもに何の罪がある。お前は一度死んだんだ。
今度は命を懸けて子どもを守ってやれ』
井戸から身を投げた自分を救った、見も知らぬ男にかけられた言葉。
たった一度だけ、誰かに聞いて欲しくて全てを打ち明けた相手が、
まさかこの国の王だったとは。
ロカにもらった言葉を、ヴェローナは胸の奥底に封をして大事に閉まってある。
いつの日か、自分が愚かな考えを抱いた時、再び取り出すために。
「う~ん」
今しがたかけたばかりの毛布を蹴飛ばして、マルスは寝台の上で回転を始めた。
寝ている間でさえ、子どもというのは、どうしてこうも落ち着きなく動き回るのか。
それとも、これはマルスに限ったことなのだろうか。
ヴェローナはマルスの体をそっと抱き寄せると、
すべすべと光る頬に、そっと唇を寄せた。
「お休みなさい、マルス」
もう一度、小さな足の下敷きにされた毛布を取り出し、
肩の上まで引き上げる。
・・ホーエン、マルスをお願いいたします。
続き部屋にいるであろう、マルスの父親に心の中でだけ挨拶をして、
ヴェローナはそっと踵を返した。