【天の雷・地の咆哮】
それから、あっという間に3年の月日が流れ--。
「ねぇ、私求婚されちゃったんだけど」
一人の侍女が、城の廊下を歩きながら隣にいる同じくらいの歳の侍女に話しかける。
「すごいじゃない!相手は?」
話を聞いた未婚の侍女は、先を越されたと思いながらも、楽しい話題に飛びついた。
「それが、ちょっと迷ってるのよ。ルクス様のお屋敷で働いてる方で」
「そうか。今はアニウス様が飛ぶ鳥を落とす勢いでルクス様の影は薄いものねぇ。
でも、ニュクス様が御産みになったディスコルディア様も、もうすぐ3歳におなりだし、
そろそろ次のお子様ができるんじゃないかしら」
「そうね。今度こそ、王子を御産みになるかもしれないわよね」
けらけらと楽しい話題に夢中の彼女たちは、
すぐ傍で一人の男が耳を済ませていることに少しも気づかなかった。
と言っても、男はあまりに見事に気配を消していたので、
歴戦の猛者がその場にいたところで、男の存在を見抜けたかどうかわからないのだが。
「さぁて。そろそろ、だな」
男は、にやりと口の端を吊り上げて笑った。
己の胸が、わずかに悲鳴を上げているような気も、
己の瞳が、わずかに潤んでいるような気もしたが、
この城の主は、そんなことで考えを曲げるような信念の持ち主ではなかった--。