【天の雷・地の咆哮】
暖かい春の陽気に誘われて、虫たちは一斉に穴倉から這い出、
木々はたくさんの美しい花々で化粧を施す。
その中にある一本の巨木の幹に、男が立ったまま下を見下ろしていた。
ただそれだけでも、幼い少年には興味をそそられる光景だろうが。
男は両腕に長い生地のついた衣を身につけ、
しかもその衣にはたくさんの鳥の羽が縫いとめてあったのだから、
少年の好奇心を刺激するには充分だった。
「お父様!そこで一体何をなさっているのですか?」
少年の宝玉のような二粒の蒼い瞳が、内側からきらきらと輝きを見せる。
「おう、マルスか!
俺は、今から鳥のように飛んで見せるからな。
ようく、見ておけよ」
「鳥のように、って。ひょっとして、空を飛ぶって事ですか?」
「そういうことだ」
自信満々に笑みを浮かべる口元から、父の白い歯が見える。