【天の雷・地の咆哮】

暖かい春の陽気に誘われて、虫たちは一斉に穴倉から這い出、

木々はたくさんの美しい花々で化粧を施す。


その中にある一本の巨木の幹に、男が立ったまま下を見下ろしていた。


ただそれだけでも、幼い少年には興味をそそられる光景だろうが。

男は両腕に長い生地のついた衣を身につけ、

しかもその衣にはたくさんの鳥の羽が縫いとめてあったのだから、

少年の好奇心を刺激するには充分だった。


「お父様!そこで一体何をなさっているのですか?」


少年の宝玉のような二粒の蒼い瞳が、内側からきらきらと輝きを見せる。


「おう、マルスか!

俺は、今から鳥のように飛んで見せるからな。

ようく、見ておけよ」


「鳥のように、って。ひょっとして、空を飛ぶって事ですか?」


「そういうことだ」


自信満々に笑みを浮かべる口元から、父の白い歯が見える。


< 154 / 214 >

この作品をシェア

pagetop