【天の雷・地の咆哮】
“逃げなさい”、と喉まで出かかった。
しかし、ニュクスはなぜかそれを声に出す事ができなかった。
いや、しなかったと言う方が正しいかもしれない。
恐怖からではなく、この少年なら、“ケレスに負けないのではないか”と、
そう思うもう一人の自分が引きとめたからだ。
何の根拠もない、勘どころか、ただの期待からみえる幻に違いないと思ったにもかかわらず。
確かに一般の少年から比べれば、背も高く体もがっしりとしているようだったが、
どう見ても、ごつごつとした筋肉隆々のケレスに比べ、
少年は、一回りどころか二回りほど小さいのは傍目にも明らかだった。
「うおおおぉぉ!」
猛り狂うケレスの太い腕が、弧を描き少年の頭上に振り下ろされる。
もちろん、その腕が握っているのは鈍い光を放つ鋭利な剣だ。
誰の目にも、少年が無残な姿で息絶える光景が想像された。
「ぎゃああああっ!!」