【天の雷・地の咆哮】
なぜ、ロカが自分を処分しなかったのか。
わざわざヴェローナを妃にすると宣言して挑発し、
怒りに任せて剣を抜いた自分に対し、同じように剣を抜いて笑ったロカ。
傷を負わせただけで、止めを刺さなかったロカ。
最初は、自分に恥をかかせるのが目的かと思った。
好きな女の前で生き恥をさらし、己の子どもに父だと告げることも許されず。
それがこの身に下された罰なのだと。
だが--。
・・ヴェローナ。俺は、犯した罪を一生かけて償おう。
君とマルスを見守ることで。
見上げた空に、月はない。
だが、それは確かにそこに存在したのだ。
ただ、目に見えぬだけで。
ホーエンはぎゅっと唇を噛み締めると、地に響くほどの唸り声を上げた。
見張り番をしていた兵士たちが、あわてて彼の元へ駆け出した。