【天の雷・地の咆哮】
長い、沈黙。
どちらも口を開かない。
お互いの体は、ぴたりと寄り添っているのに、心はまるで別の方角を向いている。
ニュクスの真摯な瞳に焼かれるような気がして、ロカは嘆息した。
長年訪れた部屋は、少し古ぼけてきてはいるものの、
美しい布を使って重厚な雰囲気をかもし出している。
ニュクスの美的感覚が優れているせいだろう、と思いながら、
ロカはようやく白旗を揚げた。
「マルスを、幸せにしてやりたいんだ」
いつもより、ずっと低い声音で、しかししっかりとニュクスの瞳を見返す。
その顔には、穏やかな笑顔。
ニュクスは、胸が締め付けられて、息がうまく吸えない。
鼻声になりそうなのを堪え、なんとか言葉を吐き出した。
「あなたがいなくなれば、彼は不幸になるのではないの?」
「いや、違う。俺は邪魔なんだ。いないほうが、あいつのためになる」