【天の雷・地の咆哮】
「おい、大丈夫かぁ?」
ニュクスが放心状態から我に返ったのは、彼女の頭の上から落ちてきた、いかにも軽そうな少年の一言によってだった。
「んじゃ、俺行くわ。気をつけていけよ、ニュクス」
後ろ向きに手をひらひらと振りながら小さくなっていく少年の背中を見て、
ニュクスは猛烈に怒りが湧いてきた。ふつふつと煮えたぎる鍋のごとく。
「ちょっとあなた!
まさか、この状態の私たちを置いていくつもりではないでしょうね!
大体あなた、どうして私の名前を知っているの!!
挨拶は自分からではなかったのかしら。なれなれしく呼ばないで」
命の恩人、確かに盗賊が尻尾を巻いて逃げていったことを考慮すれば、そういうことになるのだろうが。
そう呼ぶには、あまりにいいかげんな少年。
腰が抜けたまま立つこともできないでいる自分たちを、あっさり見捨てようというのだ。
「でもとにかく、助けていただいたことにはお礼を申します。
私たちを助けていただいて、どうも」
他人の言葉をそのまま借りてきたような平坦な口調で、ニュクスは少年をにらみつけた。