【天の雷・地の咆哮】
そこは一面に白い花が咲き乱れる花園で、
ため息を漏らすことさえはばかられるほどの、清浄な空気に満たされている。
広大な一枚の白い敷布の中に、ぽつんと一つの枯れ井戸があり、
そのすぐ傍の地面には、月明かりに映し出された、長い影が伸びていた。
「皆、元気でな」
ぽつりと呟きが漏れる。
これで見納めとばかりに、ぐるりと周囲を振り返った時、
もう一つの大きな影が、井戸に近づいてきた。
「また城から脱走ですか、ロカ様」
巨体を持つ男の低い声が、空気を振るわせる。
「ホーエンか」
井戸に手をかけたまま、影の主が口を開く。
フュ~、と口笛を鳴らし、
「よくここがわかったな」
と、さほど驚きもせずにやにやと笑う影の主は、もちろん、ロカだ。