【天の雷・地の咆哮】
そうか、と一度は瞳を伏せたものの、ロカはすぐに井戸の中へと身を躍らせた。
「見舞いにいらっしゃらないのですか?」
「お前がいるだろ。俺が行くよりあいつは喜ぶ」
・・喜ぶ、だと?
頬の傷が、わずかに痛みを覚えたような気がする。
この恋敵は、もしやとんでもない勘違いをしているのではないか。
前々から、うっすらと感じていたことが、はっきりと現実になって目の前に落ちてきた気がして、
ホーエンは、何か言いかけたが、それは喉の辺りでもやもやとするだけで言葉をなさなかった。
「ホーエン。あの二人をよろしく頼む」
「頼まれなくてもお守りいたします」
ぶっきらぼうなホーエンの台詞が、ロカには嬉しくて、切なかった。
同じ女を愛した者同士。
身分の垣根をとっぱらって、酒でも酌み交わしたかったものだが。
上空で強い風が吹いたかと思うと、流れた雲が瞬時に月を飲み込んだ。
再び雲間から月がその身をあらわにした時、
ロカの姿は、もうどこにもなかった。
その日を境に、ウェスタの王の姿を見るものはいなくなった--。