【天の雷・地の咆哮】
・・ヴェローナ。
月を仰ぎ、ヴェローナの名を心に刻むもう一人の男がいた。
部屋の中では、母の死に気落ちする若い王と、前王の正妃。
わずかに啜り泣きが漏れ聞こえる。
朝早くに届いた訃報は、しかし臣下たちの間ではたいして重要視もされずにいる。
もちろん、表面上その死を悼んで見せてはいるものの、
アニウスの地位はすでに確固たるものとなっていて、
彼女の死によって、どんな政的変化もないからだ。
・・ユピテロカ王。やはり、力ずくであなたを引き止めておくべきだったか。
そう考えて、男は自嘲した。
一度たりとも勝った事のない相手に、力ずくも何もないだろう。
頬の傷は、ざらざらとした手触りがして、男は顔から手を離した。