【天の雷・地の咆哮】
もしも彼が能無しならば、王になる前に死人となっていたに違いないだろう。
密かな王位争いの末、次々と死んでいったロカの兄たちのように。
男は、愛する女のために全てを捨て去りながら、
その女の死を知る術を持たぬロカに同情を覚えた。
あの自由人は、ヴェローナの死に涙を流したりするのだろうか。
廊下の窓から眺める空は、いつもよりも穏やかに見える。
星がきらりと瞬いたかと思うと、一瞬のうちに空を横切って消えていった。
人の人生とは、あの星のようなものなのかもしれない。
男はもの思いにふけりながらも、決して涙を見せることはなかった。
・・何があっても、私は私の生涯を、マルス王へ捧げるだけだ。
無口な男は、表情を変えることなく、ただ背筋をぴんと伸ばした。
しんしんと更ける夜は、いつもと変わることなく、ただ空間を藍色に染めていくだけだった。