【天の雷・地の咆哮】
ロカはいったんニュクスを、彼女の侍女であるニナの近くにおろしたが、
ニナが完全に失神してぴくりともしないことを確かめると、
荷袋を抱えあげるように、二人を両肩に背負った。
「ちょっと、乱暴じゃない?私たちは荷物じゃないのよ」
雑な扱いなど受けたことのないニュクスは、ゆらゆらと揺れながらロカの肩越しに不満を漏らす。
「ん~?だって、歩けないんだから仕方ないだろう?
それとも、この女置いていくか?」
「そんなことできません!ニナは私の大事な侍女なのよ。
産まれたときから世話をしてくれていて」
「じゃあ、あんたが残るか?」
いいわ、と言いかけたとき、ニュクスの視界の隅に何かの塊がうつった。
不自然に地面に放置された、人形の、“腕”のようなもの。
・・違う!あれは、人の腕だわ!!
人の腕。いや、人の腕だったもの。
ほんの数刻前までは。
突然、さっきまで見ていた光景がニュクスの脳の中で再現されて、
彼女は胃袋がねじ上げられるようにしてこみ上げてきたものを、必死で押さえた。