【天の雷・地の咆哮】
「んで?どうするんだ。お前を置いていくのか?」
心胆を寒からしめた男が、自分を担いで歩いている。
そんな当たり前の事に、ニュクスは改めて気づかされた。
ひょっとしたら、盗賊以上に危険な人物に助けられたのかもしれない。
けれど。
「いいえ。このまま連れて行って。
私の家まで送ってちょうだい!」
なぜか恐怖を感じない。
「で~!?まじかよぉ」
強いて感じるとすれば、それは神に抱く畏怖の念に似ている、とニュクスは思った。
男の衣は一見機能性を重視した質素な一兵卒が着る物と同じに見えるが、
ところどころに刺繍された糸は非常に高価なもので、布自体もかなりよい仕立てだ。
そして、その衣には、返り血一つついてはいなかった。
ニュクスの顔にまで、勢いよく飛び散ったはずの、ケレスの血が。
「あ~。今日はなんてついてない日なんだ」
・・だいぶ、怠け者の神様のようだけど。
さっきまで吐き気を誘発していたロカから伝わる振動が、妙に心地よく感じられて、
ニュクスは長い睫を伏せた--。