【天の雷・地の咆哮】
「金を積んで、ラトナを還俗させる」
やはりそうか、とアニウスは思った。
ウェスタの巫女は神殿に入るさいに純潔を誓わされることになっている。
しかし、ラトナのように毎年何人かの貴族の娘が誓いを破り、
大金と引換えに、神官の地位を降りて還俗、つまりこちら側の世界に出戻っていた。
神官というのは、ウェスタの巫女の中の階級の一つで、貴族の娘で構成されている。
上から順に、上級神官、中級神官、下級神官という三階級があり、
さらにその下には、一般庶民で構成されている、上級巫女、中級巫女、下級巫女の階級がある。
ラトナは親の意向によって志願し、半年前に貴族の中では最も位の低い下級神官を拝命したばかりであった。
・・まったく、ラトナのやつめ!
ラトナが神官になると知ったときから、こんな日が来るのではないかと、
アニウスは密かに危惧していた。
父の手前、ラトナの妊娠に驚いて見せたものの、本心ではやはりな、とあざけりを感じていた。