【天の雷・地の咆哮】
3人兄弟の真ん中に産まれたラトナは、美しく活発だが、忍耐という言葉とは無縁な少女だった。
自由奔放で気まぐれ。
あまり物事を深く考えない彼女が、あっさりと神官になる事を了承したのも、
先々の苦労を想像さえしていないからではないのかと、アニウスは考えていた。
そしてやはり。
「残念でしたね、父上。
ラトナがウェスタの神官長(しんかんちょう)になれなくても、
父上のお力なら、必ずご出世なさいますよ」
アニウスは、落ち込む父に心にもない慰めを口にした。
神官長というのは、ウェスタ神殿の最高権力者のことだ。
かなりの権力を持つことにつながるため、貴族はこぞって自分の娘をこの神殿に送りたがる。
アニウスの父も、そうとは口にしないまでも、娘を使って己の野心を果たしたいと考えていることは、
誰の目にも明らかなことであった。