【天の雷・地の咆哮】
ヴェローナは、アニウスの下の妹、3人兄弟の末っ子に当たる。
思った事を何でも口にしてしまうラトナとは違い、素直で優しく思慮深い娘だ。
「父上!」
「もう決めたことだ」
「しかし、ヴェローナは婚約しております!」
もしも本当に神官になるならば、当然婚約は解消し、神殿へ入らねばならない。
家族とも恋人とも別れ、固く閉ざされた建物の中で、
神を伴侶とし、多くの制約を友として、30年間の任期が切れるその日まで。
「ヴェローナは、なんと言っているのです」
彼女の返事がアニウスには手に取るようにわかっていたが、
訊かずにはおれなかった。
「立派に勤めを果たすと、そう言った。
おとなしいヴェローナでは、神官長になる可能性は少ないだろうが、
それでもひょっとしたら、ということもあるからな」
アニウスは、奥歯をぎりと噛み締め、知らず、両腕の拳を握りこんだ。