【天の雷・地の咆哮】
まるでわかっていない。
アニウスは、父の見る目の無さに苛立ちを隠すのが精一杯で、言葉を告げなかった。
ひょっとしたら、どころではない。
芯の強いヴェローナなら、どんなことをしても任期を勤め上げるだろう。
苦労を顔に出すことも、他人に愚痴をこぼすこともなく。
・・なんということだ。
アニウスはラトナの時には感じなかった、強い焦燥感を覚えた。
「そう言えば、ユピテロカ王子の妃候補としてニュクスという娘が、明日王宮へ上がるそうだ。
歓迎の催しが行われることになった。お前も出席を許されたぞ。
ラトナの失態を取り返すためにも、しっかりとユピテロカ王子に顔と名前を売っておけよ」
俯く息子の態度に気づきもせず、父親はすでに次の話題へと移った。
アニウスは反射的に、はい、とだけ答えた。
窓の隙間をすり抜けて入った初夏の風が、優しくアニウスの頬に触れた。
これから訪れるであろう多くの苦難に立ち向かう彼らを、そっと励ますように--。