【天の雷・地の咆哮】
肺が痛みを訴える。
いや、それだけではなく、全身のいたるところが古びた小舟のようにきしきしと悲鳴を上げる。
美しい刺繍のしてある長い衣の裾は破れ、少女のほっそりとしたまっすぐな足が、
惜しげもなく森の清浄な空気にさらされていた。
一目で高級品とわかる柔らかな絹で縫われた靴は、主をなくしたまま道端に転がっているはずだ。
幼いころから蝶よ華よと育てられた少女には、裸足で森の中を走るなど生まれて初めての経験であった。
ましてや追いかけられることなど、いわずもがなに違いない。
はぁはぁと肩で息をしながら、少女はただひたすらに前だけを向いて走った。
・・早く人を呼ばなくては。皆、殺されてしまう!
「ひ、姫様!!」
自分のすぐ横を同じように駆けていた侍女が、後ろを振り返り叫び声をあげた。