【天の雷・地の咆哮】

無理やり雑念を追い払い、何度目かの寝返りを打ったとき、

ふと新鮮な風が、ニュクスの頬を一撫でした。



・・侍女が窓を閉め忘れたのかしら。



寝台から身を起こそうとした瞬間。


「こんばんは、ニュクス」


突然男の低い声が耳を打ち、ニュクスはヒッ、と短く息を吸い込んだ。


「おい、俺だ、俺」


ニュクスが叫び声を上げそうな気配を察して、その闖入者(ちんにゅうしゃ)は、

彼女の口元を大きな掌で覆い隠した。


忘れるはずもない、その声。


「残念ですけど、私の知り合いに、“俺”様はおりません」


ニュクスは、一瞬にして緊張から弛緩した体に、精一杯の向こう意気の強さを貼り付けて、

平静を装った声を出した。

少々震えている気もしないではなかったが。

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