【天の雷・地の咆哮】
そうか、というロカのささやくような呟きが空気に吸い込まれていく。
すぐ目の前にある翳りのあるロカの横顔を見て、ニュクスの心がざわめいた。
「んじゃ、俺はそろそろ行くわ」
次に言葉を発したとき、ロカは今までの若者の印象そのもので、
ニュクスは彼が垣間見せた真剣なまなざしが、夢のように思えた。
にっかと笑った、いたずらな子どものようなその笑顔に、
ニュクスはなぜか胸が締め付けられるような気がする。
「んじゃ、って、それだけですか?」
引きとめる気はないが、なにやら一抹の寂しさを感じたのも事実だ。
背を向けたロカに、ニュクスが足を踏み出すと、彼女の長い髪がふわりと揺れた。
「ん?それだけ。あ、やっぱり口付けの一つでもしとくか?」
振り返るロカの台詞が、最初ほど嫌ではない自分に、
ニュクスは気づかないふりをした。
「結構です。早々にお引取りを。
まったく、子どものような王子ですね」