【天の雷・地の咆哮】

そうか、というロカのささやくような呟きが空気に吸い込まれていく。

すぐ目の前にある翳りのあるロカの横顔を見て、ニュクスの心がざわめいた。


「んじゃ、俺はそろそろ行くわ」


次に言葉を発したとき、ロカは今までの若者の印象そのもので、

ニュクスは彼が垣間見せた真剣なまなざしが、夢のように思えた。


にっかと笑った、いたずらな子どものようなその笑顔に、

ニュクスはなぜか胸が締め付けられるような気がする。


「んじゃ、って、それだけですか?」


引きとめる気はないが、なにやら一抹の寂しさを感じたのも事実だ。

背を向けたロカに、ニュクスが足を踏み出すと、彼女の長い髪がふわりと揺れた。


「ん?それだけ。あ、やっぱり口付けの一つでもしとくか?」


振り返るロカの台詞が、最初ほど嫌ではない自分に、

ニュクスは気づかないふりをした。


「結構です。早々にお引取りを。

まったく、子どものような王子ですね」


< 46 / 214 >

この作品をシェア

pagetop