【天の雷・地の咆哮】
「あはは。仕方ないさ。俺はあんたより年下だし」
「年下、って。いくつなのです」
そういえば、ロカの年齢を知らない、とニュクスは思った。
ロカは、ウェスタの第5王子として産まれたが、物心ついた頃から国境沿いの辺境を転々としており、
王宮のある中央に戻ってきたのは、つい最近のことだ。
そのせいで極端に情報が少なく、容姿や年齢、性格にいたるまで、
一貫した噂話を聞いたことがなかった。
ある者は、女好きで酒飲みで堕落した若者だといい、
ある者は、剣の達人で指導力に優れた王の器であるといい、
またある者は、突飛な発想で周囲を驚かせるだけの狂人だと評した。
彼以外の4人の王位継承者が、次々と死ぬような事態にならなければ、
生きていることさえ忘れられたほどの、希薄な存在だったのだ。
そのため、突然跡継ぎになったこの若い王子に、
貴族たちはこぞってごまをすり、なんとか気に入られようと必死の争いを見せていた。