【天の雷・地の咆哮】
胸を張るニュクスにたいし、ん~と、人差し指でこめかみをかきながらロカが口にしたのは、
彼女が最も恐れていた台詞そのものだった。
「さっき、あそこにいた侍女のことなんだが」
ニュクスの胸が、嫌な感触をたててざわりと波打つ。
「ヴェローナって言うんだけどな」
自分でもわかるほど、両肩に力が入った。
そんなニュクスの様子を理解しているのか、
それともあえて知らぬふりをしているのか。
ロカは、挨拶を口にするように、ごく当たり前のこととしてたんたんと言葉をつむいだ。
「実は、妊娠してるんだ。
それで、子どもが無事に産まれるまで、あんたに預かってほしいんだが」
暗闇よりもさらに深い沈黙が、その場を支配した。