【天の雷・地の咆哮】

部屋の中の空気が、時を止めたように流れを失う。


ニュクスは、はっと息を詰めたまま、自分の全身から血の気が引いていくのがわかった。


手を伸ばせば触れられるほど近くにいながら、

ロカとの間に、一生埋められないほどの溝ができたのだ。

いや、溝が出来なのではなく、初めからそれはそこにあったのだ。


霧に包まれた広大で深遠な谷。


自分が見ようとしていなかっただけで。

霧が晴れれば、そこは光の届かぬ暗闇。



・・なんだ。な~んだ。



ロカが急に自分を呼び寄せたのは、

会いたかったからなどではなかった。


ただ便宜的に自分を必要としていただけ。

ロカの子どもを宿した女の世話をする人間を。



< 70 / 214 >

この作品をシェア

pagetop