【天の雷・地の咆哮】
部屋の中の空気が、時を止めたように流れを失う。
ニュクスは、はっと息を詰めたまま、自分の全身から血の気が引いていくのがわかった。
手を伸ばせば触れられるほど近くにいながら、
ロカとの間に、一生埋められないほどの溝ができたのだ。
いや、溝が出来なのではなく、初めからそれはそこにあったのだ。
霧に包まれた広大で深遠な谷。
自分が見ようとしていなかっただけで。
霧が晴れれば、そこは光の届かぬ暗闇。
・・なんだ。な~んだ。
ロカが急に自分を呼び寄せたのは、
会いたかったからなどではなかった。
ただ便宜的に自分を必要としていただけ。
ロカの子どもを宿した女の世話をする人間を。