【天の雷・地の咆哮】
愛を囁かれる甘い生活を期待していたわけではない。
次代の王ともなれば、何人もの女を囲い、子どもを産ませることはわかっていたことだ。
けれど、欠片ほども自分を女として見ていないロカの態度が、
ニュクスの誇りに、大きな傷をつけた。
「わかりました」
必死に口角を上げて、簡潔に一言だけこたえた。
その後のことは、ほとんど覚えていない。
いつロカが部屋を去ったのか、どうやって寝床に入ったのか。
「う、うぅ・・・」
その晩、ニュクスは初めて声を殺して泣いた。
布団に顔をうずめ。
泣いていることを、誰にも気づかれるわけにはいかない。
自分は妃としての役目を果たすために城へあがったのであって、
恋愛ごっこをしに来たのではないのだから。
幸せに育った彼女が、初めて手に入れられないものの存在を知った晩だった--。