【天の雷・地の咆哮】
なおも震え続けるヴェローナを、そっと抱き寄せるようにロカが腕を伸ばす。
と、身を固くしたヴェローナは一歩後ずさり、青ざめてよりいっそう震え始めた。
「あ、悪い」
・・だめだ。どうすりゃいいんだ?
女は抱いて慰めるものだと教わったのは、いつのことだったか。
忠実にその言葉に従ってきたロカにとって、ヴェローナは初めて会う種類の女だった。
「お前の腹の子の父親を、殺したりはしない。だから、安心しろ。
もう泣くなって」
「・・・はい」
返事だけは立派だったが、ヴェローナが顔を上げる気配はない。
ロカは軽くため息をつくと、天を見上げた。
自分の信頼する護衛兵が、よりにもよって男子禁制のウェスタ神殿に忍び込むとは。
・・生真面目なやつは、やることが大胆だからなぁ。
濃紺の空が、まだ若い彼らを試すように肌寒い雨粒を落とし続けた--。