【天の雷・地の咆哮】
「実は、昨夜から部屋に戻っていなくて、
侍女に探させましたところ、おかしな話を耳にしまして。
言うべきかどうか迷ったのですが」
「なんだ、言ってみろ」
「はい。
実は、今朝早く、ヴェローナが男の部屋から出てきたのを見たという者がおりまして。
その男というのが、あなたの護衛の」
「もういい」
ニュクスの言葉をさえぎって、ロカは、静かに目を閉じた。
ヴェローナの不貞に怒りをあらわにするかと思ったのに、
ロカはいたって冷静で、声に変化もない。
椅子にもたれかかる様子からは、気落ちしているようにも、たんに関心がないようにも見える。
しかし、ニュクスもここでひくわけにはいかなかった。
心の中に静かに沈殿していたどろどろの膿は、すでに自浄作用の働かぬほどに巨大になっている。