【天の雷・地の咆哮】
・・どうしてヴェローナにはそんなに配慮をするの?辛いのは私の方なのに。
自分が愛人の世話をさせられていると陰口を叩かれている事を知ったのは、
やはり今朝のこと、ニナの話でだった。
周囲にどう思われているのか気にはなっていた。
しかし、今の今まで知らぬふりを通し、ひたすら我慢してきたのだ。
素直にではなかったかもしれない。
だが、ニュクスにしてみればロカへの思いのたけを口にしたつもりだった。
抜け殻のようになってその場にしゃがみこんだニュクスの脇を、
ロカは一瞥もせずに通り過ぎた。
存在を否定されるどころか、初めから無かったかのように。
涼やかな風が通り抜けて、木々の梢をさわさわと揺らす。
一人きりになった部屋で、ニュクスの耳にその音が妙にはっきりと聞こえた。
この日、ニュクスは時間がたつのも忘れ、
人形のように身動き一つせず、いつまでもそこに座っていた。
ただ一つ、
人形が見せることの無い、涙を頬にたたえて。