【天の雷・地の咆哮】
ウェスタ国が、病に冒された平凡な王を失ったのは、真夏の太陽が照りつける昼間のことであった。
時を同じくして、一人の元神官が元気な男の赤ん坊を産み落とした。
王の死によって一気にあわただしくなったロカが、赤子誕生の報を受けたのは、
深夜、自室においてのことだ。
「ロカ。ヴェローナが無事に男児を産みましたが、お会いになりますか?」
ニュクスは、遣いを出すことはせず、自らロカの部屋に足を踏み入れた。
はっと息をのむような音が聞こえて、ニュクスは自然にそちらを振り仰いだ。
そこには、ロカの護衛をしている男がいた。
背が高く、がっちりとした体格をしている。
その頬には、新しくついたような傷跡があり、赤みを帯びて痛々しい。
男は、自分の動揺をニュクスに悟られたと知るや、すぐに視線をそらし、無表情になった。
・・やはり、この男が、産まれた子どもの父親なのだわ。
ニュクスが男を観察していると、ロカがその男の肩を大きな掌でがっしりと掴んだ。
「ホーエン、お前、俺の代わりに赤ん坊を見てこい」