【天の雷・地の咆哮】
「は?」
ホーエンと呼ばれた男は、主の命令が瞬時に理解できないようで、すぐに動こうとしない。
ロカは再び椅子に腰をおろし、気だるそうに足を放りだしてから、もう一度念押しした。
「俺は父の葬儀のことで、今日一日、さんざんうるさい連中の相手をして頭が痛いんだ。
だが、ヴェローナの様子も気になる。お前、見てきて俺に報告しろ」
無表情を装っていたホーエンが、魚が陸に上がったようにぱくぱくと口を開き、
細く小さなまぶたを限界まで持ち上げる。
そのあまりにも間抜けな面を見て、それまでのいかつい顔つきとの落差に、
ニュクスは思わずプッと吹き出してしまった。
ロカは頭の後ろで掌を組みながら、ニュクスに視線を合わせる。
「なんだ、ニュクス。何がおかしいんだ?」
「いいえ、なんでもありません。では、私が彼を連れて行きましょう。
ホーエン、こちらへ」
促すニュクスを前にしても、ホーエンはぴくりとも動かない。
「お待ちください。それは私の役目ではございません」