【天の雷・地の咆哮】
窓の外で一斉に虫が演奏をかなではじめ、部屋の中に流れ込んでくる。
その音にまぎれるようにして、ロカは口を開いた。
「俺に、言いたいことがあるんじゃないのか?」
ニュクスが綺麗な弧を描いた唇で微笑みを作ると、美しい眉がわずかに下を向いた。
「山ほどありすぎて、何を言いたかったのか忘れてしまいました」
「そうか」
二人の間に沈黙が降りると、虫たちの声が勢いを増してこだまする。
城にあがり、事実上ロカの妃として認められていたものの、
ニュクスはいまだ正妃の位を得てはいなかった。
そのため、“ロカの子どもを産んだ女”が正妃になる可能性を誰も否定できないでいた。
「お前も、俺の子どもがほしくなったか?」
いつものように茶化した言い回しで、ロカは口の端を吊り上げて笑う。
ニュクスは静かに、ただ、はいとだけ答えた。