世界終了のお知らせ
なんじゃあらぁ。
おそらく私以外の大半の生徒も、同じことを思ったであろう。
控えめに短いスカートからすらりと伸びた脚。
体の前で重ねた両手はほっそりと、爪なんてネイルでも施してるかのようなぴっかぴかな桜色。
胸まで伸びた髪はふわふわのさらさらで薄い茶色。
校則の厳しいうちの学校でおとがめが無いところをみると地毛なのかもしれない。
なによりその顔。
くるりとちいちゃくて、その代り大きな目にばっさばさのまつ毛。瞬きのたびに風が起きそう。
にっこり笑った唇からは歯磨き粉のCMさながらの白い歯が覗く。
そこいらのアイドルなんて裸足で逃げ出す可愛さ。
越夜 亜子
「こしやあこです。よろしくお願いします。」
黒板に書かれた名前を読み上げ、越夜亜子はぺこりと頭を下げた。
「越夜さんはご両親のお仕事の都合で新潟から引っ越していらしたんですよ。急な話でびっくりしたと思いますがみなさん仲良くしていきましょうね。」
目の前の美少女に目がちかちかしたまま私たちはぱち・ぱち・と、拍手を送った。
「ひゃあー、ものすんごい美人だねえ!」
素直に感想を口にするひるな。彼女の目にもちかちかの星が見えそうだ。
お決まりのようにホームルーム後は皆越夜亜子に群がった。
質問攻めになりながらも、一つづつ丁寧に答えていく様は好感が持てる。
可愛子ぶることもなく、かといって冷たいわけでもなく、嫌味の全くない。
きらきらとしたその花を囲むミツバチたちを私は輪の外からぼんやり眺めていた。
彼女の登場には驚いた。驚いたけど、それは私の人生に何の影響も与えない。
私の家庭が円満になるわけじゃなし。
未来に希望が持てるわけじゃなし。
ああ、なんて非の打ちどころがないお嬢さん。あなたは完璧ね。
私は私らしく、このままひっそりと生きていこう。
そんな皮肉を思い浮かべてまた机に付した。
だからそのあと、越夜亜子が私を見ていた事になんてちっとも気付かなかった。