VIRUS ‐ COCKTAIL
PROLOGUE

1

カラン、と氷が転がる音がした。
其れは自分のリラックス出来る唯一の手段ともいえるもの。
至福のひとときは、今、終極を迎えようとしている。

体内に注がれるそれは、一段と美味だった。
毎日試行錯誤し、至福のひとときの為に美味だけを追求したそれ。

「やはり、ダイキリは絶品だな」

ダイキリ。
ダイキリという名の鉱山が存在しており、そこで技師として働いていたアメリカ人ジェニングス・コックスが、1896年、灼熱の地で清涼感を求めてキューバの特産物であるラムにライム・砂糖・氷を入れて作ったのが始まりとされているカクテル。


カクテルを満喫していたら後ろのドアがコンコン、と音がし、振り向いた。

「レントさん!またカクテル何か飲んで…」

この人は秘書の阿部純樺。ちょっと強情気味で頑固。良く言えば勇者、悪く言えばカバかな…。

「レントさん!!いい加減にして下さい!カバと呼ぶのはやめてとあれ程!」
「分かった、分かったって。ジュンはお節介なんだから、俺の事よりも部下に…」

すると純樺は顔が赤く、口を尖らして拗ねてしまった。

「私は秘書と言う仕事を全うしただけなのに。レントさん酷い…」

しまった、と思った。
拗ねたと言うより、もう泣いてしまったのだ。

「…ごめん!この通りだよ。許してくれっ」
「レントさんがそこまで言うなら…。いえ…私こそごめんなさい」

何事も謝るしか純樺は許してくれない、頑固者だった。
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