聖夜の約束
「ただいま、莉奈さん。どこか行くんですか?」
コートを羽織って財布を片手にしている莉奈さんは、少し急いでいる風にも見える。
「父さんが材料間違えて買ってきちゃったの。そうだ、華南子ちゃんも、一緒に夕ご飯どう?」
「あ、いえ……、今日は、その、約束……! 約束があるんです! すみません、折角誘って貰ったのに」
「ううん、気にしないで。じゃあ、またね華南子ちゃん」
パタパタと駆けていく莉奈さんの背中を見送って、あたしは三階の部屋まで駆け上がる。
扉を開けると、室内にはひんやりとした空気が漂っていて、薄暗い空間の明かりを点けてヒーターのスイッチを押す。
コートを脱ぐことも、制服を着替えることもせずにソファに横たわって、溜め息を、一つ。
「期待なんて、するだけ無駄だよね……」