明日は
「五年前に取り壊された病院だよ」

「う~ん。五年前ねえ……」

 母親は包丁を止めた。

「知らないの隣町だよ」

「五年前ではないけど、隣町で一年前ならあるわよ」

「それどこ?」

 母親は包丁をまな板に置き、息子の顔をじっと見た。

「無倖坂病院よ」

「ええっ!」

 子吉沢は驚きの声を出した。聞き覚えのある病院の名だったからである。

 無倖坂病院は二年ほど前に父親がアルコール依存症で入院していたところだ。

 子吉沢が小学生の頃、父親は普通に働いていた。たまに二日酔いで休むことはあるが、まじめに出勤はしていた。

 今思えば平穏だった。

 事態が急変したのは、子吉沢が中学一年生になってすぐのことであった。
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