背中あわせのふたりは


『今日は帰って?
彼と、まだ話が残ってるの。
明日は行きたいところもあるし…。
落ち着いたら東京に戻るから、お願い、今日は帰って』


彼女がどんなふうに彼に対して言ったのか理解できないまま、彼は肩を落として出て行った。


疲弊した表情の彼女と視線がぶつかって、卓也は息を飲んだ。


デジャヴのように感じて、すぐに思い当たった。


昔、同じような表情をした彼女を見た。


「お願い、今は東京に帰ってほしいの。
心配かけたのは悪いと思ってる。
実家にも連絡したんでしょう?」


友人が頷くのを確認して、彼女は続けた。


「きっとちゃんと帰るから。
だからもう戻って?
…ありがとう」


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