背中あわせのふたりは


「うん、東京。
言ったことなかった?
東京の大学に行くって」


綾香がそう言うと、彼の表情は険しくなった。


「俺、聞いてない。
綾香が東京行くなんて」


…確かに、受験生になるまで、ふたりの間で進路の話はあまり出なかった気がする。


一度、就職か進学か訊かれたくらいで。


綾香が固まっていると、彼は何も言わずに席を立った。


そしてしばらく、ふたりの間に交流はなかった。


綾香がどんなにメールや電話をしても、それを返してくれることも、受けてくれることもなかった。


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