キミの手 キミの体温
「……バカ」
照れて拗ねてしまったのは俺の方。
悔しいからギュッと抱きしめて千愛の視界を塞いだ。
やっぱり俺は千愛を失いたくない。
俺には千愛しか居ないから。
不意に思い出した紅音さんの言葉が殊更そう俺に強く訴えていた。
心がざわつく原因はきっと……嫉妬。
母親の愛情。
共に過ごす時間。
どんなに望んでも俺には手に入らないモノへの嫉妬だ。
「バカじゃないよっ」
「……なに?」
「わたしは宝珠が大事だから一緒に居たいのっ」
伸ばした千愛の手のひらが俺の頬を捕えて、
「だから一緒に居たいの。わかった?」
じんわりと体温が伝わってきて、そしてにっこりと笑いかけた。