キミの手 キミの体温


「優雅……どんなことがあっても誰かを憎んだり恨んだりしたらダメよ」


「えっ」


「愛された分だけ優しい人でいて……お母さんは優雅を愛してる」



それに、お父さんもちゃんとわたしたちを愛してくれているから。



付け加えた縋るような声色に、小さな手で必死に母さんの背中を抱きしめ返す。



誰かが母さんを苦しめてる。
大切な人が苦しんでいるのにどうすることも出来ないもどかしさに、幼いながらに心が締め付けられた。



それでも母さんは今までのように優しい笑顔を絶やさず父親に接し続けている。



あの時母さんが言ったように父親も相変わらず俺たちをちゃんと愛してくれていた。



数年後。
瑠璃が事故で亡くなるまでは……。


< 271 / 359 >

この作品をシェア

pagetop