キミの手 キミの体温
「行ってあげてくれ」
こう言って見送る葦原さんに頷いてわたしはマンションへと駆け出した。
厚いコンクリートの階段はあの頃と変わらずヒンヤリとしていて。
中に入って行く程に記憶は鮮明に甦ってきた。
宝珠の居る場所は体が覚えてる。
3階に着いた瞬間、迷いなく足が向かったのは階段から一番遠い扉。
手を繋いだ宝珠と一緒に何十回と訪れた場所だもん。
間違える筈がない。
表札も何も無い扉のドアノブに葦原さんから預かった鍵を差し込んだ。
ゆっくりと回した鍵穴からカチャリと金属音が鳴る。
ドアノブにかけた手が緊張感に包まれた。
……もう拒まれても逃げ出さない。
そう自分に言い聞かせてわたしは扉を開いた。