キミの手 キミの体温

口の中で小さく呟いた名前はわたしにしか聞こえてなくて。



わたしの隣をすれ違っていった宝珠は、


「ぁっ……」


見上げる視線に目もくれず、素早く横を通り過ぎて行ってしまった。



椅子が床を引きずる音がして、宝珠が座る気配がする。



宝珠はわたしに気付かなかったのかな……。



いつもまぶたの裏に居た男の子の笑顔と、前に立っていた時の作り笑顔の宝珠が頭の中でいっぱいになっていった。



なんだか、違和感を感じる……あの笑顔。




ドキドキと不安がさっきから交互に胸の中に押し寄せてくる。



「舟瀬。前に座ってるヤツがウチのクラス委員だから。何かあったら遠慮無く言えな」


「はい」



記憶の中よりずっと低くなった声に、トクンと心臓が跳ねた。



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