キミの手 キミの体温
放課後になり、学校ではとりつく島もない宝珠に会うために前に訪ねたマンションへと足を伸ばした。
瑠璃おばさんの命日に訪ねた時よりも風が冷たくなっている気がする。
薄暗くなり始める空を見上げながら、相変わらず人気の無いマンションの通路を歩いていく。
学校では視線すら合わせてくれない宝珠は、突然訪ねたわたしと会ってくれるかな……。
冷たい風が吹き抜けて不安な気持ちが煽られる。
キュッと身を縮めながら思い出すのは、宝珠が淹れてくれたマーマレード入りの紅茶の味。
10年の時間の中で変わったモノが一杯あったけど……冷えた手を気遣ってくれた優しさは変わってない。
「大丈夫……」
きっとわたしが好きだった部分は変わってないはずだから……。
こう自分に言い聞かせながら踏み出した足が、宝珠の家の数歩前で止まった。