淡い満月
朝食が済むと、私は片桐さんに連れられて廊下に出た。
「どこ行くんですか?」
少し先を歩く彼の背中に声をかけると
「誘ったはいいけど、実はどこに行くか考えてなかったんだよね。」
なんて笑いながら、エレベーターで1階のボタンを押した。
よく考えたら片桐さんと2人で歩くなんて初めてのこと。
私はそんな状況に胸を踊らせていた。
「え、そんな、自分で買えますよ?」
「気にしないの。」
自動販売機の前までやって来たところで、私の分まで買おうとしている彼を必死に止める。
「でも…。」
「こんなこと、最初で最後だろ?」
「………。」
“最後”
彼が口にすると、とても悲しい言葉に聞こえる。
「はい、こういうときは男を立てましょう。」
困ったように笑う彼が差し出した温かいココアが、かすかに湯気を立てていた。