淡い満月
現実の世界に戻ることも不安だったけど、彼と会えなくなるのも不安だった。
この数日間は本当に幸せだったから…。
「私、片桐さんに出会えて良かったです。」
「いきなりどうしたの?」
「何となくです。」
片桐さんがいたから、現実を忘れていられたんだと思う。
笑っていられたんだと思う。
彼は私が病室を出て行く時間に検査があるらしく、ここで話すのが最後だと言った。
「片桐さんも早く退院できるといいですね。」
「ありがとう。」
こんなに感謝しているのに、ありきたりな言葉しか浮かばない。
それなのに、「また会えたら」とはどうしても言えなかった。
望んでいることと望んでいいことは、必ずしも同じとは限らないものだ。