淡い満月
優しい沈黙
ずっと繋いでいたかったのに、こういうときの時間は早く過ぎるものだ。
アパートの前に着いてすぐに、スルッと手は離れてしまった。
「ここの2階だよ。」
彼は離れた右手をアパートに向ける。
私の手は彼の手が離れて行き場をなくしていた。
「お邪魔しまーす…。」
「はいはい、どうぞ。」
遠慮がちな背中をそっと押されて中に入る。
「片桐さんの匂いがする。」
「え、そんなに!?」
安心する。
本人には分からないみたいだけど。
「えーっと…嫌?」
「ううん、好き。」
好きなのはあなただけどね。
片桐さんは少し驚いて、片手で口を覆った。