淡い満月
「小波さん!?」
玄関の扉を体で押した私の後ろから、片桐さんの声だけが届く。
「ちょっと、待て!」
追いつかれて腕を強く掴まれた。
「………。」
「どういうことだ、小波さん。どうして出て行くんだ?」
好きだから、だよ。
「……小波!!」
彼は私を初めて呼び捨てで呼んだ。
「離してください…。」
「じゃあ、理由を話しなさい。」
こんなときまで優しくしてもらわなくてもいいよ。
「お姉ちゃんが死んだのは……。」
私はお姉ちゃんに似てなんかない。
「私のせいだから…。」
掴まれていた腕が自由になった瞬間、私は彼の腕を振り払って扉を開けた。
片桐さん…。
彼の驚いた顔が一瞬、扉の隙間から見えた。